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東京地方裁判所 昭和48年(ヨ)2361号 判決 1976年2月13日

申請人 大炊御門憲

右訴訟代理人弁護士 庭山正一郎

被申請人 株式会社化学工業日報社

右代表者代表取締役 桜井徳寿

右訴訟代理人弁護士 柴田政雄

同 石井久雄

同 深野正頼

主文

本件申請を却下する。

訴訟費用は申請人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  申請人

1  被申請人は、申請人を編集局報道部(官庁取材担当)勤務として仮に取り扱え。

2  訴訟費用は被申請人の負担とする。

二  被申請人

主文同旨。

第二当事者の主張

一  申請の理由

1  当事者

(一) 被申請人は、「化学工業日報」等の新聞および各種出版物を発行している株式会社であり、従業員数は、約二二〇名である。

(二) 申請人は、昭和四六年三月に中央大学法学部を卒業し、同年四月に被申請人に雇用され、当初は編集局英文部に配属され、六ヶ月の試用期間を経て正社員となり、同年一〇月一五日から編集局報道部員(官庁取材担当)として勤務していた。

そして、申請人は、化学工業日報労働組合(以下、組合という。)の組合員である。

2  配置転換

被申請人は、昭和四八年六月二七日、申請人に対し、同月一日付で編集局調査課勤務を命じる旨の意思表示をなした(以下、本件配転という。)。

3  本件配転の無効事由

(一) 雇用契約違反

申請人は、被申請人と雇用契約を締結するに際し、これの内容として、申請人が英語に堪能であることから、将来これを生かせる記者として就業するとの合意がなされたものである。

申請人の編集局英文部、同部報道部の勤務は、右合意に応じた配属であったが、本件配転による調査課の職務内容は、被申請人が購読している各種新聞の単なるスクラップ等の整理をするだけであって、申請人の英語力の開発や記者としての能力啓発とは全く無関係な職場であり、従って、本件配転は、明らかに雇用契約に違反したものであって、無効である。

(二) 人事権の濫用

仮に、前項で述べた申請人の英語力を生かせる記者として就業するということが雇用契約の内容ではなく、単に申請人の希望に過ぎなかったものであるにしても、被申請人は、当初申請人の右希望を十分に理解し、これに副った業務に配属させていたのであるから、特段の事情のない限り、申請人の右希望と全く無関係な業務に配属させ、記者としての将来の展望を全く崩壊せしめるが如き取り扱いをすることは申請人に著しい精神的ショックを与えるものであって、到底許されることではないといわなければならない。しかも本件配転は、申請人に事前に内示が全くなされずに行なわれたものであり、これは、被申請人における人事の一般的慣行に違反したものである。そして、調査課は、全くの閑職であり、ここに配転させられることは、将来とも取材記者としての活躍を断念させる明白な左遷であり、これまでの記者としての技能を抹殺させられるものである。以上の諸点からみて、本件配転は、明らかに人事権を濫用してなしたものであって、無効である。

(三) 労働協約違反

(1) 被申請人と組合との間に締結されている労働協約一五条には、「会社は組合員の転勤および配置転換については、本人の希望、生活条件、技能などを公平に考慮して行なう」と定められている。しかるに、被申請人は、申請人の希望等を無視して本件配転をなしたものであるから、本件配転は、右協約一五条に違反して無効である。

(2) さらに、労働協約一六条には、「会社は転勤および配置転換を行なう場合、事前に労使協議会で協議決定する」と定められており、同協約五〇条には、「労使協議会の付議事項は左のとおりとする。(1)採用、異動、転換、休職、解雇、賞罰などに関する事項。(2)ないし(7)は省略。労使協議会の決定は会社、組合双方の合意を必要とし、労使協議会で協議が整わなかったものは団体交渉において解決に努力するものとする。」と定められている。しかるに、本件配転は、労使協議会における組合の反対を無視してなされたものであるから、無効である。

(四) 不当労働行為

被申請人は、申請人が報道部員として外勤するに際し、上部団体のビラ等を被申請人会社内に持ち帰って組合活動するのを嫌い、申請人の組合活動の機会を事実上消滅させるために本件配転をなしたものであるから、不当労働行為として無効である。

4  保全の必要性

申請人は、被申請人からの圧力により一応本件配転に従ったものであるが、調査課の業務は、全く無為な作業であり、申請人がこのまま本案訴訟が確定するまで同課に勤務することは申請人の記者としての業務習得の機会を喪失せしめ回復し難い損害を被る。

二  申請の理由に対する答弁

1  1(当事者)について

認める。

2  2(配置転換)について

認める。

3  3(本件配転の無効事由)について

(一) (一)(雇用契約違反)について

否認する。

(二) (二)(人事権の濫用)について

否認する。

本件配転は、次に述べる理由によりなされたものである。すなわち、被申請人は、昭和四八年六月一日付をもって、週六日制毎日八頁建の新聞発行を行なうことを企画し、この業務内容に適した機構改革として、報道部の従来の取材グループを一〇グループに拡大再編成し、各グループを少数精鋭主義により全グループの取材機能の平準化を行なうこととした。そして、これに伴なう人事異動の一環として本件配転が行なわれたものであるが、申請人は、出勤が不良であるばかりでなく、取材能力にも欠如し、右再編成取材グループにおける少数精鋭の報道部記者として適するに足りる能力と熱意がなく、また、今後においてもこれを期待する可能性が認められなかったことによるものである。

(三) (三)(労働協約違反)について

(1) 労働協約一五条には申請人が主張するとおりの定めがなされていること、申請人が組合員であることは認めるが、本件配転が右協約一五条に違反するとの主張は争う。

(2) 労働協約一六条および五〇条には申請人が主張するとおりの定めがなされていることは認めるが、本件配転が労使協議会における組合の反対を無視してなされたとの点は否認する。

(四) (四)(不当労働行為)について

否認する。

4  4(保全の必要性)について

否認する。

第三疎明関係≪省略≫

理由

一  申請の理由1および2は、当事者間に争いがない。

二  本件配転の効力について

1  申請人は、本件配転は雇用契約に違反すると主張するのであるが、申請人が被申請人に雇用されるに至った経緯については後記2に認定するとおりであり、申請人と被申請人との雇用契約の内容として、申請人が英語力を生かせる記者として就業するとの合意がなされたことを認めるに足りる疎明はない。

従って、この点に関する申請人の主張は理由がない。

2  申請人は、本件配転は人事権を濫用してなしたから無効であると主張するので検討する。

≪証拠省略≫によれば、次の事実を一応認めることができる。

被申請人は、昭和四六年度における高校・大学新卒者一八名(大卒一五名、高卒三名)の採用を既に同年二月末日までに決定し、全員三月までに社内研修を完了し、同年四月一日から出勤させていたところ、同年四月初旬頃、中央大学就職部長川副泰孝から個人的に申請人の採用方の依頼を受け、従来から就職関係で世話になっていたことからこれを断わり切れず、申請人を同月一五日に採用することにした。しかし、被申請人は、申請人の配属先につき、右に述べたとおり、既に当該年度の採用予定人員を確保していたので、一応同日付をもって編集局英文部に配属させたのであるが、これは、同部の要求していた人材に適ったものではなく、右に述べたとおり、申請人を止むを得ず採用したことによる処置であった。勿論、被申請人が申請人の語学力に期待したというものではなく(申請人の中央大学法学部における英語の成績は、優が三、良が一、可が二であり、第二外国語のドイツ語は、全て可であった。)、被申請人としては、申請人が将来一般中堅社員となることを期待していたものであった。

ところで、申請人は、英文部に配属されて後、見習社員として印刷会社に原稿を届けたり、簡単な校正等の雑用に従事していたのであるが、同年六月一七日、突然逮捕・勾留されるという事態が発生し、被申請人は、申請人が黙秘権を行使していたこともあって、申請人の所在を全く把握することができず、そこで、同月二四日、編集局次長(英文部担当取締役)鈴木康正、同局次長畠中稔美、同局英文部部長渡辺猛、同局英文部部長代理浅野耕成、総務局次長(取締役)松崎昭二が申請人の処置、主として解雇問題について協議し、席上、松崎次長は、人事担当責任者として、試用期間中でありながら長期無断欠勤をしたことを不問にすることは好ましくないので解雇にすべきであると提案したのであるが、畠中次長の提案により、今暫く様子をみてから結論を出すということになった。ところで、申請人は、同年七月一四日出勤したのであるが、前記畠中次長、鈴木次長、渡辺部長らが申請人に欠勤の事情を尋ねるとともに、無断で欠勤したこととこれまでも遅刻が多いことも新入社員として好ましくないとしてこれらの反省を求めたところ、申請人は、全く反省の態度を示さなかったので、畠中次長らは、申請人に対し、反省文を提出するよう求めて帰宅させた。しかし、申請人は、同月一七日、反省文として文書を提出したが、何ら反省文になっていなかったので、畠中次長は、申請人に対し、自宅待機をして反省し、反省文を再提出するよう求めた。ところが、申請人は、同月一九日、「自宅待機することは不当処分を認めることになるから出社した」と述べて在社し、同月二〇日、二一日も同様出社して終日机の前に座し、そして、さらに、同月二二日午前一〇時から英文部の定例会議が開催されようとした際、これに出席しようとしたので、前記鈴木次長、渡辺部長が自宅待機中であるから会議に参加しないよう制止したところ、強引に会議室に入場し、会場を混乱させ、会議を流会させた。そこで、畠中次長、鈴木次長、渡辺部長らは、申請人の処置について協議したところ、申請人を解雇すべきであるとの意見が有力であったが、畠中次長のみが申請人を弁護した結果、処分決定は留保することとし、この問題は差し当り同次長に一任することとなった。そこで、同次長は、申請人の処置について苦慮したのであるが、同次長の部下である佐藤陽治を通じて申請人を説得したところ、申請人は、同月二四日から自宅待機に従った。そこで、前記畠中次長、鈴木次長、渡辺部長らが前記欠勤や遅刻により被申請人に迷惑をかけたこと、自宅待機すべきことを無視し、かつ、上司の指示に従わず英文部定例会議を流会させたことについて反省の意を表したならば処分は見合わせるが、申請人を引き続き英文部に勤務させることは対人関係、その他の面で適当でないとの結論に達し、畠中次長の指導の下に編集局報道部に配属させることを決定した。そこで、被申請人は、同月二六日、申請人に対し、右決定の趣旨を申し渡したところ、申請人は、不承不承口頭で反省の意を表したので、申請人に対する解雇は取り止め、申請人は、同年八月一日から編集局報道部で、椎野和郎をキャップとするいわゆる官庁グループに所属し、通産省において取材を担当することとなったのである。ところが、申請人は、積極的に取材活動をすることなく、取材記者としての義務を果さなかった。そこで、椎野和郎は、昭和四七年四月頃、申請人を科学技術庁・農林省担当としたのであるが、申請人は、依然として取材活動をなす努力に欠けていた。さらに、申請人は、欠勤や遅刻が多く、また、無断でいわゆる直行・直帰(取材業務の性質上朝出社しないで直接取材現場に直行し、同現場から直接帰宅することを意味し、この場合上司に連絡し承認を受けなければならない。)を頻繁に繰り返し、しばしば上司から注意を受けていた。

ところで、被申請人は、新聞企業一般の傾向として、増頁により記事内容の充実と報道範囲を拡張する競争が激化してきたので、編集局を中心に増頁問題を取り上げ、これの実施とこれに伴なう機構改革について検討してきた。そして、被申請人は、昭和四八年六月一日付をもって、これまで週七日制のうち、三日間が八頁、四日間が四頁の日刊紙発行体制を週六日制で毎日八頁の発行体制に業務内容を改めることにした。そのためには、取材対象の拡大と取材陣内容の強化が必要となり、新規社員の採用、配置転換をも含む報道部を中心に編集局全体の再編成を検討し、その結果、従来の発行体制では報道部の取材グループが六グループであったのを一〇グループに拡大し、再編成を行ない、原則として、一グループ当り四名構成を基準にすることにした。また、グループ内の人的構成についても年令、勤務年限、取材経験などを考慮して、全グループの取材機能の平準化を図ることとした。これに伴ない、官庁担当グループ(椎野グループ)は一名減員となるが、人員の再配置については新らたに編集局直属となった調査課の機能、人員確保をも含めて総合的に検討した結果、大巾な人事交流を図ることとした。そして、被申請人は、右人事交流の一環として、本件配転をなしたのであるが、被申請人が本件配転をなしたのは、前に述べたように、申請人が取材能力および取材量の劣悪なことと遅刻が多く、無断で直行・直帰をするなどの勤務態度の不良なことから、発行体制改変後もなお引き続き申請人を報道部に止めておくことは不適当であると判断し、申請人に対し、化学工業を中心とした一般基礎知識の勉強の機会を与えるとともに欠勤・遅刻癖を矯正し、勤務態度を改めさせることが必要であると判断したことによるものであった。

ところで、本件配転先の調査課は、昭和四五年四月に編集局出版部の新設に伴ない同部内に設置されたが、その後昭和四八年六月に本件機構改革に伴ない同部から分離し、編集局調査課と組織変更されたものであり、その職務は、①出版、報道等の資料の収集、整理、保管、加工、②社内外に対する必要な資料の提供、③社内外からの照会、問合せ等に対する調査回答等を主たる内容とすること、報道部と比較すれば、地味ではあるが同部に優るとも劣らない重要な職場であること、また、前記人事異動に際しても調査課長岩館忠治が第二報道部長に、調査課課員水迫末広が第二報道部員にそれぞれ取材記者として転出したものである。

≪証拠判断省略≫

以上認定したところによれば、被申請人のなした申請人に対する本件配転は、一応相当な理由があるものとして肯認し得るところである。

申請人は、本件配転が申請人の希望に副わないものであると主張するが、被申請人の人事権の適正な行使という観点から申請人の希望の容れられないことがあってもそれは止むを得ないものであるというべきであり、また、本件配転により、申請人が主張するように、申請人の記者としての将来の展望を崩壊せしめるものでもないというべきである。また、調査課の職務も申請人の今後の職務遂行上マイナスとなるものとは思われず、結局、今後の申請人の心構え如何によるものであろう。その他被申請人が本件配転につき人事権の行使を濫用してなしたと認むべき点はない。

従って、この点に関する申請人の主張は採用しない。

3(一)  申請人は、本件配転は労働協約一五条に違反すると主張するので検討する。

労働協約一五条には、申請人が主張するとおりの定めがなされていることは、当事者間に争いがない。

ところで、本件配転の経緯およびこれがなされた理由については先に認定したとおりであり、この理由についても一応肯認し得ることは前述したとおりであるから、本件配転が申請人の希望に副うものでなかったからといって、これが労働協約一五条に違反し無効になるものということはできない。

従って、この点に関する申請人の主張は理由がない。

(二)  申請人は、本件配転は労働協約一六条および五〇条に違反すると主張するので検討する。

労働協約一六条および五〇条には、申請人が主張するとおりの定めがなされていることは、当事者間に争いがない。

ところで、右協約一六条および五〇条の解釈によれば、被申請人は、本件配転をなすに際し、組合と事前に労使協議会において協議し、この合意を得て本件配転をなさなければならなかったものというべきであるところ、被申請人は、右合意の存在について何ら主張し疎明しないのであるから、本件配転は、右協約一六条および五〇条に抵触するものといわなければならない。しかしながら、≪証拠省略≫によれば、被申請人と組合との本件配転についての労使協議会における協議の経緯は、次のとおりであったことが一応認められる。すなわち、被申請人は、昭和四八年五月九日、一〇日の両日に亘り、組合に対し、日刊紙発行体制に伴なう機構改革と人事異動の内容を提示し、協議をしたのであるが、その後、被申請人と組合とは、同月一二日から同年六月二三日頃までの間、春闘の賃上げ問題をも含め約一九回の団体交渉を重ねた。その間、組合執行部は、五月一六日頃、右機構改革および人事異動問題をも含め、日刊八頁発行問題に反対するストライキ権確立の全員投票を実施したが成立せず、再度同月二九日頃、同様ストライキ権確立の全員投票を実施したが成立しなかった。そこで、組合は、このような状況から、被申請人に対し、右問題をこれ以上闘えないとの態度を示し、闘争の最終処理として、右人事異動に最後まで不服の意見を述べていた高橋龍節と申請人の両名について、労使協議会において協議を行なうことを申し入れ、被申請人は、これに同意し、そこで、右二名の異動について、左記のとおり、労使協議会が開かれた。すなわち、第一回労使協議会は、同年六月二五日開催されたのであるが、申請人の関係についてみれば、組合は、申請人が単に報道記者を続けたいとか、調査課に向いていないということのみの主張を繰り返すだけであったので、被申請人は、右の理由だけで業務上の必要に基づく本件異動を左右されたのでは業務に支障を生じるので再考の余地がない旨答え、結局、翌日、申請人を呼んで意見を聞くことになって、同日の労使協議会は終了した。第二回労使協議会は、同月二六日開催され、申請人は、同協議会において、本件異動に反対の理由として、①申請人の取材成績が悪いとするならば、それは上司である椎野課長の指示に従ってやった結果であるから、それは椎野課長の責任である、②申請人は調査課に向いていない、③ようやく報道記者として仕事に馴れてきたから、このまま続けたい、との三点を挙げた。被申請人は、申請人の右反対理由について反論を加えながら、申請人に対し、調査課も重要な職務であり、同課で勉強して出勤不良などを矯正して欲しいと説得し、本件異動については再考の余地がないと答えたところ、組合は、もう一度労使協議会を開催し、その上で良く論議したいと申し入れた。そこで、同月二七日、第三回の労使協議会が開催されたが、ここでは主として組合から前記官庁グループのキャップである椎野和郎の申請人に対する指示、取材成績不良についての具体的な説明を求められ、申請人と椎野和郎との意見交換に終始した。そして、結局のところ、組合は、席上本件異動には反対であるが、被申請人がこれを強行する場合はこれ以上闘争を継続しない旨表明し、本件配転についての労使協議会は終幕となったものである。

以上の認定を左右するに足りる疎明はない。

以上の認定事実によれば、組合が本件配転に反対していたのは、何ら合理的な理由に基づくものではないというべきであり、このことは、組合の本件配転に対する同意権の濫用であるといわなければならない。従って、本件配転が組合の同意なくしてなされても何らその効力には影響を及ぼさないものといわなければならない。

従って、この点に関する申請人の主張は理由がない。

4  申請人は、本件配転は不当労働行為であると主張するので検討する。

≪証拠省略≫によれば、申請人は、本件配転以前報道部員として外勤した際、組合の上部団体である総評新聞労連、全国専門新聞労働組合協議会のビラ等を社内に持ち帰り組合員に配布する等の組合活動をしていたことを一応認めることができる。しかし、被申請人が、申請人の主張するとおり、申請人の右活動を嫌悪し、申請人の組合活動の機会を奪うために本件配転をなしたことを認めるに足りる疎明はない(≪証拠省略≫によれば、申請人が調査課勤務となったからといって格別組合活動に支障をきたすことのないことが一応認められ、これを左右するに足りる疎明はない。証人村上清四郎((同証人作成の疎甲第七三号証の陣述書も含む))は、本件配転は申請人の組合活動を理由とした不当配転だと思うと証言するが、同証言は、単なる臆測を述べているに過ぎないので信用できず、また、申請人もこれと同旨の供述をするのであるが、これも単なる見解を述べているに過ぎないので信用できない。)。

従って、この点に関する申請人の主張は理由がない。

四  以上の次第であるから、本件仮処分申請は、被保全権利についての疎明を欠くものであり、保証をもって疎明に代えることも相当でないから、却下することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 林豊)

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